お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
一歩、もう一歩、もう少し……。
会話を聞こうと近づいて。
「お嬢、近いです」
くるりと振り向いて碧は注意。
気づけば碧の真うしろにいたわたし。
……会話を聞こうと必死になりすぎていたみたい。
「わ、わたしのことはお気になさらず!話を続けてください!」
こうなったら仕方ない。
堂々としていよう。
わたしがそう言えば、碧は組員に「すぐ準備して行く。玄関で待ってろ」と伝えて。
「わかりました。失礼します」
と頭を下げて、組員は去っていく。
どうやら会話は終了したようだ。
「すみません、急用ができたので行ってきます。今日も勉強を教えてくださりありがとうございました」
彼はぺこりと頭を下げる。
碧に勉強を教えて、今日で5日目。
なんとなく、予想はついていた。
昨日も、一昨日も、その前も、こうして碧は組員に呼ばれては急用ができたと外へ行ってしまう。
もしかしたら今日も……ってなんとなく思っていたんだ。
「若頭のお仕事?」
「はい」
「気をつけてね」
「ありがとうございます。行ってきます」
そんな会話をしたあと、碧はすぐに行ってしまう。
忙しい彼にそんな言葉しかしか言えない。
若頭の仕事が心配でも、わたしもついて行きたいと思っても、それは迷惑をかけるだけだから。
わたしは碧の部屋に行って勉強道具を片付けて、自分部屋のベッドへと寝転んだ。
……今度は1日、じっくり碧の観察ができるといいな。