お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
好きな人がだれかとキスをする瞬間。
あまりにも急なことで、頭が真っ白になる。
「……おい」
碧は女性を突き放すと、つないでいない方の手で自分の唇を拭う。
遅れたようにやってくるのは、胸の痛み。
ズキズキと痛み出して、目の奥が熱くなって下を向いた。
「ここで会った記念だよ。じゃあねー」
女性は碧にそれだけ言うと、くるりと背を向けてすぐに行ってしまう。
「……見苦しいところをお見せしてすみません、お嬢。行きましょうか」
また2人になると、碧はなにごともなかったかのように歩き出して。
停まっていた組員の車にわたしを乗せると、彼はすぐに行ってしまった。
今日は、碧のことをたくさん知った日。
今まで隠されていたところを知って、たくさんのことをこの目で見た。
小鳥遊碧の知らないところは、まだ多い。