お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
***
「お嬢!!さっきの好きな人とはだれなんですか!?」
朝食を食べに居間へと行けば、予想通り碧に好きな人のことを問い詰められる。
「秘密!!」
すかさず、わたしはそう返す。
それでも、そう簡単に碧が聞くのをやめるわけもなく……。
何度も何度も聞かれた。
登校する車に乗っている時も、お昼休みも。
聞かれるたびに同じ言葉を返して、なんとか逃げたけど……。
体力をかなり消耗。
お願いだからもう聞かないで、と願うばかり。
碧とはクラスが別なのは、唯一の救い。
授業中だけはいろいろと聞かれないですむ。
だけど……真剣に授業を受けようとすればするほど、頭の中に碧とあの女性のキスシーンが浮かんで。
結局はどこにいてもなにをしていても、集中することができなかった。
そんなだから、6時間目の調理実習で作ったカップケーキも、わたしたちの班だけ見事に失敗。
わたしが砂糖と塩を間違えたうえに、オーブンで焼く時間も間違えて。
カップケーキはまっ黒焦げになって、少しだけ食べてみても美味しくなかった。