お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。


凛ちゃんや調理実習の班のみんなはとっても優しくて、笑って許してくれたけど……すごく申しわけない。


……ちゃんとしよう。
ちゃんとしないと、まわりにもっと迷惑がかかってしまう。


自分の頬を叩いて、気持ちの入れ替え。
そうして教室へと戻ろうとした時だ。






──どんっ!と人にぶつかったのは。


ぶつかって、持っていたペンケースとまっ黒焦げのカップケーキが床へと落ちる。


「おっと、ごめんごめん」


前から聞こえてきた声。
この声は、健くん。


彼が今日学校にいるところを今はじめて見たから……もしかして、登校してきたばっかり?


「わたしこそごめんね!?ちゃんと前見てなかった……!」


慌てて謝って、落ちたものを拾おうとすれば、彼はわたしより先にしゃがみこんで拾ってくれる。


「おぉ、なんかすごいの作ったね?」


袋に入った、まっ黒焦げのカップケーキ。
それは捨てるのはもったいなくて、持ってきたんだけど……。

見られるのは、少し恥ずかしい。


「あはは……。ちょっとわたしのせいで失敗しちゃって……もったいなくて持ってきたの」


すぐに健くんからカップケーキを受け取ろうとすれば、彼はひょいっとわたしから遠ざけて。
もう一度取ろうとしても、同じように遠ざけられた。

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