お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。


その言葉にびっくり。

自分で食べてみたから、美味しくないというのはわかる。
わかるのに……。


健くんはわたしを傷つけないように無理して言っているようには見えなかった。

頬を緩めて、本当に美味しそうに食べている。


味覚が狂ってるんじゃ!?
こんな苦くてしょっぱいの、美味しいって思うなんておかしいよ!?


わたしの目の前で彼はどんどん食べていき、あっという間にカップケーキを1個完食。


「ねぇ茉白ちゃん。これはぜんぶもらってもいい?」


自分の手に持った袋を見て言う健くん。
袋の中には、まっ黒焦げになっているカップケーキがあと7個。

それを、ほしいの?


「えっ、でも、絶対体に悪いよ?しょっぱいし、苦いし……」
「それが美味いんじゃん。俺、甘いものよりしょっぱいもののほうが好き」


「でも、やめておいたほうが……」
「俺がどうしてもほしいんだよ。いいよね?」


ずいっと顔が近づいてきて、至近距離で目を見つめられる。

なんかいい匂いがするし、健くんの顔は整っているから、不覚にも心臓がドキッと鳴った。

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