お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
「……健くんは“暴走族の総長”ってことを隠さずに、堂々としてるところもすごいよ。
わたしはやっぱり家のことを隠さないで学校生活を送るとかは怖くてできないから……そこはすごく尊敬してるんだ」
健くんは友だちも多いし、コミュニケーション能力が高く、すごいと思うところがたくさんある。
「思ったことを素直に言ってくれるとこ、いいね。俺はそんな純粋な茉白ちゃんが好きだよ」
手が伸びてきて、わたしの髪に触れる。
優しく触れた手は、なんだか少しくすぐったい。
「あ、ありがとう?」
「俺さ、茉白ちゃんとは友だちじゃ──あっ」
健くんがなぜか言葉を切って。
わたしの背後へと視線を向ける。
なにかあったのかと思えば……。
「茉白!!」
うしろから、聞こえてきた声。
その声は、よく知っている人の……碧の声。
振り向けば、確かにそこにいた碧。
目が合えばすぐにこっちまで走ってきて、パシッとわたしの手をつかんだ。
「……碧?」
今、名前で……“茉白”って呼ばれたような!?
気のせいじゃなよね!?
碧はわたしの手を強く引っ張って、歩き出す。
「えっ、ちょっ、碧!」
声をかけてもとまってくれず。
引っ張られるまま足を動かす。