お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
「ひとつ言ったからって、わたしが答えると思ったら大間違いなんだからねっ!碧はまだまだわたしに言わないことあるくせに!なんでもかんでも言わせようとしないで!バカっ!」
そう言うのと同時に、思いっきり碧の胸を押す。
けれど、わたしの力は碧に勝てるわけもなく。彼はビクともしなかった。
次はなにを言われるかと思ったら……。
「……すみません、取り乱しました」
碧はわたしから離れて、ガシガシと頭を搔く。
……敬語使ってる。
本当に、どうしたんだろう。
別に敬語なしでいいし、むしろそのほうが嬉しいんだけど……わたしがなにを言っても長年敬語を使ってきた碧が、あんなになるなんて珍しい。
「帰りのホームルームの時間ですよね。行きましょう」
碧はそう言うとドアを開けて、わたしに先に出るようにと促す。
「……うん」
2人で屋上を出て、階段をおりる。
ちらりと見た碧の姿は、なんだか元気がないように見えた。
少し言いすぎた?
でもさっきのは……ケンカ、じゃないよね?
「追試、頑張ってね」
今日の放課後からはじまる追試。
教室に入る前に、元気がない碧にそう伝えて。
碧は「はい」と返事をして、別々の教室へと帰った。