お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
約束のキス
碧がわたしのことを名前で呼んだり、普通にため口で話してから、彼と気まずくなってしまう……なんてことはぜんぜんなかった。
あれから好きな人のことも聞かれなくなったし、碧は何事もなかったかのように普通に話しかけてきて、わたしも普通に返す。
……ほんと、なんだったんだろう。
碧は、あれ以来やっぱり少しだけ元気がない……ような気がするし。
なんて言うべきかさっぱりわからない。
考えてもわからないことだらけ。
「鷹樹茉白さん、ちょっといい?」
声が聞こえてきて、ぱっと顔を上げる。
教室の扉のほうへと目を向ければ、そこにいたのは茶髪の女の子。
以前2回ほど会った、先輩だ。
現在は放課後で、教室にいるのはわたしだけ。
なんで放課後も教室にいるのかというと、碧の追試が終わるのを待っているから。
いつもは「先に帰っててください」と言われて車まで碧が送ってくれていたんだけど、今日は追試最終日でその結果がぜんぶ返却される。
だから、結果をいち早く知りたかったわたしは今日だけ「終わるまで教室で待ってる」と碧に言ったのだった。
まさか、碧を待っている間にこんな目に遭うなんて。