お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
誤魔化せるだろうか……。
心は焦りと不安でいっぱい。
次になんて言おうか迷っていたら。
「……俺も好き。おまえの手、小さくて可愛い」
小さな声で返ってきた。
……とりあえず誤魔化せた、みたい?
なにも変に思ってない、よね?
なんて返せばいいのかわからなくて、「……うん」とうなずくだけしかできない。
これ以上はだめだ。
なんて言ってしまうか自分でもわからない。
自分の気持ちがとめられない。
もう、部屋に戻ったほうがよさそうだ。
「……つーか、手だけ?」
聞こえてくる声は小さな声でよく聞き取れない。
「え?」
「おまえが好きなのは、俺の手だけ?」
言い直してくれて……。
碧はやっと顔を上げると、わたしをじっと見つめた。
まっすぐな瞳。
目が合えばやっぱり逃げられない。
「……ほかも好き」
小さく答える。
「ほかって?」
……言わせようとしている。
碧は……っ。
「……声も、笑った顔も、優しいところも、意地悪なところも、好き。
まだ知らない碧も、ぜんぶ好きになりたい……」
そう言いきったあと。
──「碧、今少しいいか?」
すぐうしろ、襖の向こうから聞こえてきた、翔琉さんの声。