お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
ここで話してもいいのかわからなくて、だれかが話すのを待っていたら、もうずっと見事にだれも口を開かなくて。
……完全に、自己紹介のタイミングを逃してしまったのだった。
まぁいいか。
あとで、話せる時がきたら自己紹介をすれば……。
そんなことを思った、すぐあとのこと。
「──それ、小鳥遊の女?」
聞こえてきた声。
明らかに、この場にいるだれかが口を開いた。
わたしは顔を上げて若頭3人に目を向ける。
すると、目が合った人物。
オールバックの髪、耳にはシルバーの桜のピアスをしている長身の男性。
この人は、さっき来た一条組の若頭。
「“それ”じゃねぇ。この方は組長の娘だ」
碧はそう返して、一条組の若頭を睨む。
も、もしかして、若頭同士仲が悪い……?
仲が悪いからさっきまでだれも話さなかった、という可能性も……。
とりあえず、自己紹介はちゃんとしなくちゃ。
「た、鷹樹茉白です。ご挨拶が遅れてすみません……」
すぐそこの部屋の中では会議中のため、わたしは声のボリュームを小さくしてぺこりと頭を下げた。