お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。


うしろを振り向けば、そこにいたのは……。
紺色の和服を着た、優しい表情の男性。

この人はさっき一瞬だけ見た──一条組の組長さんだ。


……うしろにいるなんて。
足音もなにも聞こえなかったような……。


「こ、こ、こんにちはっ!」


わたしはすぐに挨拶をして、ぺこりと頭を下げる。
すると、その声に気づいたようで近くにいる人たちも頭を下げた。


「俺も1本吸いに来ただけだから、気楽にしてろ」


明るいトーン。
如月組の組長さんはすごい威圧感が溢れ出ていたけど……一条組の組長さんは、優しそうな雰囲気。


『大きくなったね』って言われたから、わたしは一条組の組長さんとも昔会ってるってことだよね?
3歳の時の記憶はないけど……。


顔を上げれば、優しい瞳と目が合った。


「俺が昔会った時は小さかったのになぁ。時が経つのも、子どもが成長するのも早いねぇ。
……あ、そうだ。茉白ちゃんにこれをあげよう」


一条組の組長さんは思い出したかのように和服の懐に手を入れて。
なにかを取り出せば、それをわたしへと手渡した。

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