お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。


「行こうか」


なにも言わないわたしを見て、男性は腕を引っ張って早足で歩く。


……どうしよう。
逃げようとすれば撃たれるかもしれないし、こんなところで騒ぎにしたくない。


そのまま早足で歩いて、改札を出て。
駅の外へと連れ出される。


駅を出てもやっぱり人はたくさん。
はじめて見る大きな建物、街に流れてる音楽、ここは別世界かのように思えた。


焦る心。
この状況をどうにかしたいけれど、なにもいい方法が考えつかない。


ほんとにどうしよう。
わたし、このまま連れていかれたら……殺されちゃうのかな。


そんなことを考えれば怖くなる。


わたしの腕をひっぱる男性は、片手でスマホを操作して電話。
なにを話しているのかはよく聞き取れない。


……ひょっとして、今が逃げるチャンスなんじゃ?
電話して油断してそうだし、この人の足でも思いっきり蹴ってダメージを与えれば、すぐには発砲されないかもしれない。


いや、でも……わたしが逃げることでほかの人が拳銃で撃たれる可能性もやっぱりあるわけで。

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