お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。


急に、わたしを見ていたメガネをかけた男性と、金髪の男性が投げ飛ばされて……。

2人は建物に強く体をぶつけた。


鈍い音、それから苦しそうな声。
それは、あまりにも一瞬の出来事で頭が追いつかない。


2人を投げ飛ばしたのは──碧。
彼はいつの間にか背後にいた。






「なにお嬢に汚ぇ手で触ってんじゃハゲ!ぶっ殺すぞ」


わたしに触れる坊主頭の男性を鋭い目つきで睨みつけ、低い声を出す彼。

坊主頭の男性はそんな彼を見て怯んで。


「ひぃぃっ」


わたしから手を離すとすぐに逃げようとした、が。
碧はそれを逃がさず。首根っこを掴み、坊主頭の男性の頬に拳を入れた。


1発で終わる、かと思えば……彼はとまらない。
2発、3発、と拳を入れて殴り続ける。




ひどく冷たい目。
返り血を浴びる碧は……知らない人のように見えた。


5歳の時から一緒にいたのに……。
碧のことはぜんぶ知った気になっていたのに……。

彼がここまで怒った姿を見たのははじめて。


わたしは、小鳥遊碧の“若頭”の姿を知らないんだ、と思い知らされる。

< 32 / 431 >

この作品をシェア

pagetop