お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
なんか、今……すごいことを言われた、ような。
“キス”って……そんな単語が聞こえてきたような。
聞きまちがえ?
瞬きを繰り返していれば、握られた手。
熱い体温が伝わってくる。
「個人で戦えるほうがいいから……俺が徒競走で碧くんに勝ったらの話。もし徒競走で勝ったら、茉白ちゃんのキスがほしい」
続けて、耳に届く声。
確かに、また聞こえてきた。
……“キス”って。
今の言葉は何回もわたしの頭の中で響いて……数秒後に、やっと理解。
キス?
わたしが、健くんに?
……キス!?
「え、待って、なんで、そんな……き、き、キス、なんて!?そんなのぜんぜんご褒美にならないよね!?っていうか、そんなのいらないよね!?」
言葉を理解しても、わからないことだらけ。
なんでそんなことを急に言うのか、びっくりして上手く話せない。
「それは俺にとって最高のご褒美だし、喉から手が出るほどほしいよ」
ふざけて言ってるのかもとか思ったが……
そう返した健くんは、ふざけたことや適当なことを言っているようには見えなかった。
彼は今、本気の目をしている。