お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
「……そういう顔されると、期待しちゃうよ。俺、諦め悪いから茉白ちゃんのこと簡単に諦めてやらないからね」
次の瞬間には顔が近づいてきて……。
左頬に触れた、柔らかいもの。
それは──健くんの唇で。
心臓が大きく飛び跳ねて、早鐘を打つ。
唇が触れたのは一瞬。
彼はすぐに離れて、うしろを向くと。
「──碧くん、俺、茉白ちゃんに告白したから」
健くんがそう言ったのは、わたしではなく。
──いつの間にか、うしろにいた碧。
碧を見れば、彼は鋭い目つきで健くんを睨みつけていて、かなり怒っている様子。
い、今の、碧に見られた!?
……健くんが危ないんじゃ!?
碧はなにも言わずこっちに足を進めてきて、健くんにつかみかかるんじゃないかとヒヤヒヤしていれば……。
碧につかまれたのは、わたしの腕。
強く引っ張られて、立ち上がる。
わたしに触れていた健くんの手が離れて、碧はただ無言で歩き出す。