お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
腕を強くつかまれて、少し痛い。
……でも、なにも言うことができない。
ただ足を動かすと。
「俺、徒競走で碧くんに勝ったら茉白ちゃんからキスしてもらうんだ」
後ろから聞こえてきた、健くんの声。
その言葉を聞いて、碧はピタリと足をとめる。
そして、碧は次にわたしに目を向けた。
『それは本当なのか』
と聞いているような瞳。
わたしはただ、こくんとうなずく。
「俺と茉白ちゃんがキスしてほしくなかったら、全力で俺に勝ってよ。俺は負ける気なんてないけど」
口角を上げる健くんに、殺気全開の碧。
「……ぶっ殺す」
碧はただひと言、低い声を返すと歩き出して。
わたしは手を引かれるまま歩いた。
……体育祭は、なんだか嵐の予感。