お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
一瞬夢かと思ったが、何回瞬きをしても変わらない。
目の前には碧の整った顔。
唇に伝わるのは柔らかい感触と、確かな熱。
……キスされているのは、夢なんかじゃない。
な、な、な、なに!?
なんですか、この状況は!?
き、キス、して……!
なんで急にキス!?
急なことに頭が混乱。
心臓が大きく早鐘を打って、落ち着かない。
ただ碧のシャツをつかめば……離れていく唇。
「……ムカつくから“健くん”って言うんじゃねぇよ」
至近距離で、低く声を出す彼。
……心臓が、壊れそうだ。
「おまえがあのクソ猿といるのを見るたびに、名前を呼ぶたびに、イライラすんだよ」
つかまれた手は強く握られて、少し痛いくらい。
「つーか、なに勝ったらキスする、って約束してんだよ。なにまた頬にキスされてんだよ。
……なに、告白なんかされてんだよ」
耳に届く声に、心臓がドキっとする。
碧が怒っているのは、そのこと?
健くんが勝ったらキスするって約束したこと、頬にキスされたこと、告白されたこと、の3つ。