お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
……今思えば、告白しなくてよかったのかも。
碧はわたしのこの気持ちを知らないから、わたしさえ碧への気持ちをきれいさっぱりなかったものにすれば……碧と、またいつも通りに過ごせるんだから。
早く、この気持ちをなくそう。
一刻も早く……。
下を向いて、とにかく早足で歩く。
早足で歩いて、小走りになって……最終的には走って。
更衣室へと向かっていれば、急にパシッと手をつかまれ、引きとめられた。
「お嬢、もしかして……昨日、組長としてた話聞きました?」
耳に届くのは、やっぱり碧の声。
心臓が大きく跳ね上がる。
“組長としてた話”
というのは、絶対わたしが聞いてしまったあの会話のことだろう……。
「…………っ」
「……聞いたんですね」
なにも答えられなければ、無言は肯定と捉えられる。
ど、どうしよう……っ!
「あっ、碧、ごめ──」
「この際なのではっきり言いますが、あれは俺の本心です」
わたしの言葉は、碧によって遮られた。
あれが、碧の……本心。
本当に、心の奥底から思っていること……。
彼の言葉は重く、わたしの心に深く突き刺さる。
わざわざそんなことを言うなんて……。
碧、もしかして……わたしの、碧への気持ちに気づいてた?
だから、そんなとどめを刺すようなこと言うの?
胸が痛くなって、じわりと涙がこぼれ落ちそうだった。