お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
少し蒸し暑い気温。
聞こえてくる虫の音。
2人で広い庭を歩いて、なんとなく向かったのは大きな木があるところ。
「この木、わたしが昔登っておりられなくなっちゃったの覚えてる?」
登ったのは、5歳の時。
おりられなくなっちゃって、その時に碧がなんとか受け止めようとしてくれたのをわたしは忘れない。
……すごく嬉しかったことで、あれは碧と仲良くなるきっかけだったから。
「もちろんです。お嬢が泣いてたのを俺は忘れません」
「……わたし、碧にはじめて会った日に“ブス”って言われたの忘れないからね」
笑いながら返されたのが少しムカついて、言い返す。
昔のことだから、ぜんぜん気にしてないんだけど。
「……すみません。あれは俺の黒歴史です」
「碧、虫も苦手だったよね。触れないくらい」
「虫なら今は余裕で触れますよ。お嬢を守るために訓練したので。
俺はお嬢をどんな虫からでも守ります」
碧はわたしの手をとって、指の間に自分の指を絡めると、強く握る。
「碧……ずっとそばにいる、って誓ってくれたのは覚えてる?」
「もちろん覚えてます」
即答。
それも覚えていてくれたことはすごく嬉しい。