お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
「……茉白」
耳に届く声。
“お嬢”と呼ばれるのと、名前で呼ばれることでは、やっぱりぜんぜんちがう。
名前で呼ばれるほうが……何十倍も、何百倍も、ドキドキする。
「キスしてもいい?」
誘うような声。
その声に、顔が熱くなった。
「……うん」
こくんとうなずくと、つないでいないほうの手がわたしの頬に触れる。
それから顔が近づいてきて……そっと目をつむれば、すぐに重ね合った。
優しい熱。
柔らかい感触が、しっかりと伝わってくる。
重ねるのは数秒で、すぐに離れて。
目を合わせ、さらに強く抱きしめ合う。
「……そういえば碧、会合から帰ってきてすぐにわたしにキスしたんだよ。あれはファーストキスだったのに」
自分だけ覚えているのも寂しいから、あの時のことを言ってみる。
怒っているとかではぜんぜんない。