お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
「前の席の子と少しだけ話せたの」
傘を渡しただけだけど、これは大きなチャンス。
傘を返してもらう時にもう一度話すことができるから、その時にもう少し仲良くなれたらいいなぁ。
そして連絡先までゲットできたら……って、さすがにそれはまだ早いのかな?
「よかったですね、お嬢」
「うん!」
大きくうなずいた、そのあとに。
“お嬢”と呼ばれたことに気づいた。
この学校に入学する前日に、碧と決めたことがある。
それは、他の生徒がいるところではわたしを“お嬢”と呼ばないこと。
同級生を“お嬢”と呼ぶのは、さすがにまわりの人たちはわたしたちをおかしいと思うだろう。
碧とわたしの2人きりの時なら学校でも“お嬢”と呼んでいいんだけど……。
今は学校内の、廊下。
帰りのホームルームが終わったから、廊下に出ている人も少なくない。
だ、だれかに聞かれた!?
すぐにきょろきょろとまわりを確認。
……幸い、だれかがこちらを見て気にしている様子もないから、大丈夫だと思いたい。