お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
「あ、碧」
靴を履き替えて、碧に声をかける。
言うんだ、わたし。
『碧の傘に入れて』って。
普通に。
普通に、普通に言わなくちゃ。
「なんですか?」
ぱちりと目が合えばドキリとする。
「あのね、わたし、クラスの子に傘貸しちゃったから碧の傘に入れてほしいんだけど……」
平静を装って言ったつもり。
ドキドキしながら碧の答えを待てば。
「すみません、無理です」
なんと、即答だった。
無理、なんて。
まさかの答え。
断られるとは思わなくて、ショックが大きい。
……碧、わたしと傘に入るのは嫌なんだ。
そんなにすぐ答えるくらい。
「あ、そっか……ごめん」
なんて返したらいいのかわからなくて、とりあえず謝った。
恥ずかしい。
碧なら入れてくれるよね、なんて考えてた自分が。
そりゃあ……相合傘なんて、好きな人とじゃないとしたくないよね。
碧も年頃の男の子だもん。嫌なことの1つや2つくらいあって当たり前だ。