お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
「俺も傘貸したんで持ってないんです」
目を合わせられなくなって、下を向いていれば耳に届いた声。
……碧も、傘を貸した?
「傘忘れて困ってる人がいたんですよ。俺はお嬢の傘に入れてもらえばいいか、って思って貸したんですけど……同じこと考えてましたね」
その言葉を聞いて、ほっとひと安心。
同じ傘に入るのが嫌ではない、ということがわかったから。
なんだぁ、そういう意味だったのか。
碧も傘を貸したからなかったんだね。
「じゃあ走って行こう!」
「濡れたら風邪ひきますよ。車、もう少し近くに呼びましょう」
学ランのポケットからスマホを取り出す碧。
「目立つからだめ!」
わたしは慌てて彼をとめた。
学校の近くに黒塗りの車がくれば、目立つこと間違いなし。
運転しているのはスーツを着た組員の人だから、余計に。
「風邪ひいても知りませんよ?」
「風邪ひかないもん!」
「……せめて、俺の学ランでも傘がわりにしてください」
鞄を置いて、学ランを脱ぐ彼。