お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。


「待って!」


またまた、慌ててとめる。


そう言ったのは、入学式の日のことを思い出したから。
あの日、入学式に行く前に見たもの。

彼の学ランの内側にあった──拳銃。


その拳銃は今日も、もしかしたら彼の学ランの内側にあるかもしれないと思ったからとめた。
拳銃なんて……こんなところで出したら騒ぎになるだろう。


「大丈夫です。今日はここには入れてませんから」


わたしがとめた理由がわかったのか、彼はそう返すと学ランを脱いだ。

見てみると、本当に拳銃はない。


“今日はここには入れてませんから”ってことは、拳銃を持ってはいるってことだよね?
……まさか毎日持ってくるつもりなのかな。


聞きたいところだけど、学校内ではそんな会話はできるわけもなく。
学ランを頭にかぶせられて、「ありがとう」とお礼を伝えた。


「行きましょうか、お嬢」
「うん──って!呼び方!」


また“お嬢”と呼ばれて、小さな声で注意。
すぐにきょろきょろとまわりを確認したが、雨が強く降っているせいかこちらを気にしている人は1人もいない。

また、ギリギリセーフ。

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