お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
「すみません、おじょ……鷹樹さん」
“お嬢”と再び言いかけて、言い直す。
“茉白さん”とは呼んでくれない。
苗字で呼ぶなんて他人みたいでいやだ。
“茉白”って呼んでいいのに。敬語もいらないのに。
また、そう言ってもきっと呼び捨てでは呼んでくれないし、敬語も使うんだろうな……。
「碧、そのシャツの下なんか着てる?」
名前のことは考えるのをやめて、ふと気になったことを聞いてみる。
ワイシャツが雨に濡れたりすれば、背中の刺青が透けるかもしれないわけで。
刺青が透けても騒ぎになること間違いなし。
「もちろん着てますよ。透けるといろいろやばいんで、対策はバッチリです」
「そっか。じゃあ本当に学ラン借りちゃうよ?」
「お嬢は風邪ひきやすいんで使ってください」
「碧だって風邪ひくじゃん」
「俺は強いんで風邪には負けません」
そう言う彼だけど、毎年夏に必ず風邪をひく。
しかも、わたしも一緒に。
毎年なぜか同じタイミングで風邪をひいて、同じタイミングで風邪がなおるという不思議。
きっと今年も同じ季節に碧と風邪をひくんだろうと予想。