お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
「まぁいいや、借りるね」
「はい。では、行きましょうか。転ばないでくださいね」
わたしに手を差し出す彼。
転ぶのを心配されているのか……。
「別に転ばないよ」
「鷹樹さんはドジなんですから、絶対転びます」
「な!?」
ドジって……!
転ばないし、ドジじゃないのに!
「もう行こう!」
わたしは彼の手をつかまずに、雨の中へと飛び出した。
走ったら、足元に跳ねる雨。
それでもびしょ濡れにならないように全速力で走れば……。
急に、なにかに躓いて。
体が前に倒れる。
「わっ」
地面へと倒れる直前──。
ぐいっと手を引っ張られて、なんとか転ばずにすんだ。
わたしの手を引っ張ったのは、碧。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう」
「なにもないところで躓くなんてやっぱりドジですね、お嬢は」
彼は、ふっと笑う。
……確かに、わたしが転びそうになったのはなにもないところ。
本当に転びそうになっては、悔しいけどドジというのもあまり否定できない。