お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
黒髪が濡れてぽたぽたと垂れている雫。
ワイシャツが張り付いて、黒いTシャツが透けている。
「もう!わたしの心配はいいよ!」
わたしは差し出されたハンカチを碧から奪うと、そのハンカチを広げて。
彼の顔を拭いて、次に濡れた頭をわしゃわしゃと拭いた。
「お嬢、俺は大丈夫なんで……」
「どう見たって碧のほうが濡れてるじゃん!」
「大丈夫ですよ」
「だめ!」
碧がなにか言ってもわたしは彼を拭くのをやめず。
彼のハンカチがびしょ濡れになったら、今度は自分のハンカチで碧を拭いた。
それでも、小さなハンカチで拭くのは限界がある。
制服は濡れたままだから、風邪をひいてしまわないか心配だ。
……やっぱり、学校のすぐ近くまで車で迎えに来てもらえばよかった。
碧がこんなに濡れてしまうんだったら、そのほうが絶対よかったのに。
わたしはヤクザのことが学校にバレるのが嫌だからって……走る選択をしてしまった。
今頃、後悔しても遅い。