お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。


「碧、寒くない?」
「ほんとに俺は大丈夫ですよ。拭いてくれてありがとうございます」


「帰ったらすぐにお風呂に入って体温めてね」
「はい」


「絶対だよ?」
「わかりました。……あ、そういえばお嬢。本屋に用があるんでしたよね?」


返事をしたあとに思い出す碧。


本屋さんには急ぎの用があるというわけじゃない。別にいつでも行けるし、今日じゃなくてもぜんぜん大丈夫。


今は碧が風邪をひかないかが心配だ。
一刻も早く体を温めさせないと。


「本屋さんはまた今度にする!」
「いいんですか?」


「いいの!碧は自分の心配でもしてて!」


わたしは車の後ろから、冬の時期に使っていたひざ掛けをとって、それを碧にかけてあげた。


昔から使っている、猫柄のひざ掛け。
大きいサイズだから、ひざ掛けというより毛布のようなもの。


「お嬢、いいんですか?俺が使うと濡れますよ?」


それは承知でかけてあげたのに、そんなことまで心配する彼。

まったく、碧は……。

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