お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
「おやじ、お嬢とまたお絵かきする約束してるから行ってくる」
碧くんは洋二さんにそう言うと、わたしの手をひいて。
部屋を出て、わたしの部屋へ。
「おまえ、余計なこと言ったらぶっころすからな」
低い声でひとことだけ言うと、すぐに部屋を出ていく碧くん。
やっぱり、わたしの前でだけ性格がちがう。
わたし、嫌われてる?
なにかしちゃった?
考えてもわからない。
……そうだ。
わからないなら聞いてみればいいんだ。『困ったことがあったらすぐに誰かに聞くのよ』ってお母さんが、前に言ってたし!
「碧くん!」
襖を開けて部屋を飛び出すのと同時、ガタっ!と大きな音が聞こえてきた。
板敷き状の通路──縁側には、座り込む碧くんの姿。
「どうしたの?」
なにかと思い彼の元へと駆け寄れば、彼の前には黒い大きめの虫……ゴキブリがいた。
クワガタよりも大きいサイズのゴキブリ。
碧くんは気のせいか、顔色を悪くしてゴキブリを見てる。