お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
この家は古くに建てられたと聞いたから、ゴキブリを見かけることは少なくない。
わたしはもう見慣れたけど、碧くんは慣れていないのかも。
そっとその場にしゃがみこんで。
ゴキブリを手に乗せて、外へと逃がしてあげる。
碧くんはそんなわたしを見て、すごく驚いていた。
「……あれを素手でつかむとかすげぇオンナだな、おまえ」
「すごいの?」
「すげぇよ」
「ふつうのことだと思うんだけど……。碧くん、もしかして虫にがてなの?」
「…………」
急に黙り込む彼。
それは肯定だと判断。
そっか、碧くんは虫が苦手なんだ。
これは、新発見!
「碧くんのこともっとおしえて!わたし、碧くんのことたくさん知りたい!」
碧くんの前にしゃがみこんで、じっと見つめる。
数秒間みつめあうと、彼はポケットの中をごそごそと漁って、「ん」と差し出した。
彼が差し出したものは、小袋に入ったひとくちサイズのドーナツ。
「……これやるから、俺が虫苦手なのだれにも言うなよ」
「うん!言わない!」
わたしがそのドーナツを受け取ると、「ちょろいオンナ」と小さくつぶやいた彼。