お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。


この家は古くに建てられたと聞いたから、ゴキブリを見かけることは少なくない。
わたしはもう見慣れたけど、碧くんは慣れていないのかも。


そっとその場にしゃがみこんで。
ゴキブリを手に乗せて、外へと逃がしてあげる。


碧くんはそんなわたしを見て、すごく驚いていた。


「……あれを素手でつかむとかすげぇオンナだな、おまえ」
「すごいの?」


「すげぇよ」
「ふつうのことだと思うんだけど……。碧くん、もしかして虫にがてなの?」


「…………」


急に黙り込む彼。
それは肯定だと判断。


そっか、碧くんは虫が苦手なんだ。
これは、新発見!


「碧くんのこともっとおしえて!わたし、碧くんのことたくさん知りたい!」


碧くんの前にしゃがみこんで、じっと見つめる。
数秒間みつめあうと、彼はポケットの中をごそごそと漁って、「ん」と差し出した。


彼が差し出したものは、小袋に入ったひとくちサイズのドーナツ。


「……これやるから、俺が虫苦手なのだれにも言うなよ」
「うん!言わない!」


わたしがそのドーナツを受け取ると、「ちょろいオンナ」と小さくつぶやいた彼。

< 7 / 431 >

この作品をシェア

pagetop