お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
彼がさっきまでかいていた紙を渡されて。
「ゴキブリを素手でさわるおまえの絵」
描いた絵を見せて、そう言った。
その説明通り、女の子がゴキブリを手に持った絵。
それでも、すごく嬉しい。
碧くんがはじめてわたしをかいてくれたから。
「碧くん!この絵、もらってもいい!?」
「……まぁ、いいけど」
「やったぁ!ありがとう!お母さんが帰ってきたら見せるね!」
「……おまえの母親どこにいるんだよ?」
「お母さんは、いま病院にいるの!だからすぐには見せてあげられないんだぁ」
「……へぇ」
本当は早く見せたいし、碧くんのこともたくさん話したい。
「そういえば、碧くんのお母さんは?」
「……俺の母親、事故で死んだ。おやじは俺と母親をヤクザ関係のことに巻き込みたくなくて離れて暮らしてたけど、俺が1人になったからおやじにこっちに連れてこられた」
気になって聞いてみれば、まさかの。
そんなことがあったなんて。
「碧くんの絵、天国にいる碧くんのお母さんにも見せてあげるね!」
そう言えば、碧くんはそっぽを向く。