不可侵ガール、夢幻
シャンプーのCMかよ、って言いたくなるほどの閃いたうつくしい振り向きが、ツンと黒い眼で私を見つめ返した。
「ていうか “ あんた ” じゃなくて名前、で呼んでってこれ100回め」
「名前?」
いや知らないし。
って即座に投げ返したい言葉を胸奥で呟く。名前も何も、うつくしい湖畔の瞳がウザったい。
「名前。きみは知ってるはずだから、さあ」
「なんで?」
「ぼくに出会う人間はきみだけだったからね」
「なんで?」
「夜は長いよ。気が遠くなるほど」
ころころと笑う仕草でようやく黒がなり潜めて、星を流さないように溜め息を吐き出した。星の、きらきらした背景を扱ってしまうほど、そいつはきれいだ。
中性的な、俯瞰的な、無邪気な、どれも勝手に身についたって言いそうな尊大も嫌味なく飾られてる、そいつは。
夜を怖いくらいに怯ませてしまう黒で見据えている。
「ずっと夜なの?」
「ずっと夜だ、きみが望めば望むほど。曇りも雨も雷もない平坦な日々がぼくだ」
なるほど。そいつに出会う人間が私だけだった、なんて物言いが今さら押し寄せてくる波間。私が望めば、と意思を転換させて空気は澄み続けるから本当に私に委ねられているのだとしても。
でも、でも、夜が私の色にはならない。なってしまったと思い込ませてきっと夜は、誰にも色付けられない孤高の幻想。
自由も縛り。セーラー服は年齢制限。この黒い眼は再びの枷だ。