一線をこえたら
「架椰(かや)。緊急事態発生」
学校が休みの土曜日。20時前。
はやめにごはんとお風呂を済ませて、もう寝てしまおうと部屋に戻ると、私のベッドから体をおこす、"やつ" がいた。
顔を一目みただけで、告げられたSOSの深刻さ具合がわかる。それくらいには、幾度となく似た日々をリピートしてきた、私たち。
ほぼ、人生のほとんどを共に過ごしてきて、暇さえあれば、お互いの部屋で他愛のない時間を過ごす。
そんな、2人きりの満たされていた時間が、私にとってだけ複雑なものとなったのは、中学に入ってから。
……もう、4.5年も前になる。
「……私を、かまってる時間はないんじゃなかったっけ?」
今日は、人生で最も大事な日だからって。
公開されたばかりの映画を一緒にみにいこうという、私からの誘いを。うわついた声で、電話一本で。
そう、かろやかに断ったのは、識稀なのに。
そんな識稀のせいで、日中はなにをしてもダメダメだったのに。
「や、俺には架椰が必要だわ。
映画なら奢るからさ」
悪びれもなく、私を求める識稀に、
"結局は、私なんだ" って、のぼせたくなる。
「……なら、ジンジャーエールにアイスとポップコーン、ランチもつけて」
「……架椰のそういうところ、結構すき」
識稀は、"チガウコト" を理由に、どこか深刻さを秘めたまま。
さらりと好きだとか言えちゃうくらいには、私をオンナとして、みてないのに。
バカみたい。
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