一線をこえたら
……だからこそ、余計、沙夜さんという存在が、俺にとって、最後の砦だった。
まさかの、沙夜さんがホントウの家族になるという、誤算に、全てが狂うことになるとは。
突然、救いのミチを無くして、全てが不安定ななか。
『だから、私を沙夜さんだと思って、抱いていいよ』
予想もしない架椰のヒトコトで。
欲していた、やわらかくてあまい唇、甘美な時間、架椰のにおいに、たかが5分足らずで、簡単に侵されていった。
「……かや。おれ……」
ホントウは、ずっと。
……言えずに呑み込んだ想いは、伝えても、架椰を失わずに済むのだろうか。
「……きて、しき」
「……かや」
もしも失うならば、もう少しだけ。
チガウ人への報われない恋を演じるから、残念な俺を、あまやかしてよ。
【 一線をこえたら 】
むりやりに閉じ込めてきた想いは、
引き金ひとつで、5分もあれば。
- END -