一線をこえたら
親父が再婚するんだってさ、と。
まるで他人ごとのようにつぶやいた識稀。
「……本気のやつなんだ」
聞かなくたって、私の腕の中にいる姿をみていれば、ウソじゃないことは明らかだった。
「……家族って、なんだよって感じだわほんと」
ふい、と。
感情を隠すように、天井を仰いで目元を手で覆った識稀に、ちがう意味で、ココロがいたい。
……だって。
私には簡単に、架椰は家族だっていう。
まるで一線でも引くように。
会うたびに、ことあるごとに、いってくる。
必要以上に。
ただ、たまたま、通っていた保育園が同じで。
お父さんしかいない識稀が、遅いお迎えをまって、一人保育園にのこっている姿に『シキくん。パパのこと、カヤのおうちでまちなよ』と。
バイバイの代わりに家に招き入れてから、家族みたいになっただけなのに。
小学生になっても中学生になっても。高校生になったって、ホントウの家族と同じ立ち位置は、かわらなかった。
だから。
私にとことんあまえてくる識稀は、私を抱きしめたって。私の胸に顔を埋めさえしても、オンナを感じてくれない。
欲情なんて、するわけがないんだ。
「……じゃあさ」
「……ん?」
「 」
ふいに、私の中でうまれた引き金。
そのコトバを、たった1度でも外に出してしまったら、純粋な私たちには戻れないって、わかってた。
もう2度と、素直に識稀がすきだと伝えられない。家族でさえもいられない。
全てが、なくなるって。
「…………は?」
……それでも。
「だから、私を沙夜さんだと思って、抱いていいよ」
識稀のぜんぶを、オンナの私で埋めたかったの。