一線をこえたら
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『シキくん。パパのこと、カヤのおうちでまちなよ』
……まだ、無自覚ながらに、さみしさを自分の中だけに閉じ込めていた、あの頃。
表情ひとつ変えずに、俺よりも小さな手を差し出してきた架椰の、真っ直ぐに向けられた目をみて、一生の覚悟をした。
この手をとったら二度と、離さないと。
成長していくたびに誓った。
大恋愛の末に結婚したという、親父や、離婚して会えなくなってしまった母親のようにはならない。なるつもりはないから、姉弟のような家族、という立ち位置を守ると。
永遠に、離れる可能性のない、鎖。
架椰と過ごす時間とともに育っていくキモチも、まとめて鎖でしばりつけて、ボロがでないように。
こえられない一線を、つよく、ひいた。
刻みつけるように度々口にして、
想いのまま、一線をこえないようにと。