一線をこえたら
ーー最初に自覚をしたのは、沙夜さんと架椰を間違えたとき。
中学に入学してすぐ、架椰を探して校内を歩きまわっていたときのこと。架椰だと思って声をかけたのが、沙夜さんだった。
強気でいじっぱりで、感情が顔にでやすいクセに素直じゃない架椰とは違って、言いなれてない、女性らしいという言葉がピッタリな人。
それでも凛とした後ろ姿と、横顔がどことなく似ていた。
架椰のイメージにはない、なにかしらキレイで明るい花が似合いそうな感じで、陳腐な言葉だけど、まさに女神みたいだと。
沙夜さんに対しては、ヒトコトで、憧れ。
それだけでしかなかった。
……だけど。
『理想の女神に出逢えたっぽいんだよね!
センパイ吹奏楽部っぽいからさ、陸部なら、センパイの練習場所からみえる範囲じゃん?俺にヒトメボレしてくれる奇跡を狙おうと思って』
いつもの軽い冗談みたいに。架椰になんか突っ込んでもらいたくて、話したそれ。
『あ、そう。識稀は、ヒトメボレしたわけね』
感情がカオからなくなっていく架椰をみて、もしかしてヤキモチかと。安易にも期待して、そんな反応をする架椰を、かわいく思ってしまった自分に気づいて、自覚をした。
架椰だけは、絶対ダメだと。
本気で、沙夜さんを好きになると、決意して。
どこか架椰に似てる沙夜さんなら、好きになれると希望を持って、必死で追いかけてきた日々。
自ら一線を引くように、当てつけのように、頻繁に架椰に報告をしにいって。
その度に、おもしろくなさそうな顔をする架椰にうれしくなってしまう自分と闘ってきた。
日ごとに、色気が増していく、架椰を。
好きにはならないと決めたクセに。架椰をどうにもできないクセに。ふれたくて、夢中にさせたくて。
誰にも取られたくないからと、相談を建前に、面倒見のいい架椰にあまえて抱きしめて、架椰を感じて、同じように感じてほしくて。自分本意でしみこませていった、なにか。
やめれば全て済む話を、自分の意志だけではやめられなくなっていた。