双子を身ごもったら、御曹司の独占溺愛が始まりました
 ううん、今度もまた彼に会える保証はないんだ。だって私は彼の名前さえ知らない。年齢も勤め先もなにもかも。
 ただ、いつもカフェに来てくれて私が淹れたブレンド珈琲を好んで飲んでくれるお客様でしかないんだ。

 テーブルを拭く手が止まる。

 私、本当に今のままで十分幸せなのかな。後悔しない?

 自分に問いかけてもその答えは出ない。再び手を動かし、彼が座っていたカウンター席の片づけに入る。

「あれ?」

 椅子の上に置かれた、カバーがかかった本。これはさっきまで彼が読んでいた本だ。
 手に取り、本をジッと見つめる。

 彼は常連客だ。今度来た時に渡せばいいし、彼だって忘れたことに気づいて戻ってくるか、連絡をしてくるかもしれない。

 だけど……もし今、追いかけたら? それがきっかけで彼と少しでも親しい関係になれたら?
 そんなドラマみたいな展開を期待してもいい?

 ふと、公佳の言葉が頭をよぎる。

『思い立ったが吉日っていうでしょ? 結果的に失敗に終わったとしても、後悔する失敗より後悔しない後悔のほうが私はずっといいと思う』
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