双子を身ごもったら、御曹司の独占溺愛が始まりました
 そうだよね、思い立った時に動かないと。それに彼が忘れた本を持って追いかけたって、なんら不思議なことではない。店員として当然の行為だ。

 そう自分に言い聞かせ、私は店長に事情を説明して急いでカフェを出た。だけどすぐに足を止める。
 彼はどっちに行ったんだろう。右? それとも左?

 駅があるのは右側。でもいつも閉店時間近くまでいるんだもの、もしかしたら付近に住んでいるのかもしれない。そうなら左に行くべき?

 こうして悩んでいる間にも、彼は離れていく。もう自分の勘を信じよう。
 左を選び、駆け足で彼を探す。

 でも歩道には多くの人が行き交っていて、その中から彼を探すのは難しい気がしてきた。
 それに彼が帰ってから数分が過ぎている。駅へ向かったかもしれないし、やみくもに探しても見つかるわけがないよね。

 足を止めて踵を返した。

 そろそろ閉店時間。お客様が帰った後も仕事が残っている。早く店に戻ろう。

 トボトボと重い足取りで戻りながら、乾いた笑い声が漏れた。ドラマのような展開なんて待っているはずがなかったんだ。

 心のどこかで期待している自分がいた。彼とは運命の赤い糸でつながっているのかもしれないと。
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