双子を身ごもったら、御曹司の独占溺愛が始まりました
 でも来店の際、帰るところだったご年配のお客様にドアを開けてくれたり、私たちスタッフがなにか運ぶたびにいつも笑顔で「ありがとう」と言ってくれたり、たまに持参した本を読んで涙ぐんでいたり。

 そんな一面を見て知るたびに、まともに話したこともないくせに恋心は大きくなっていった。

 今ではもう簡単に諦められないほど好きになっている。告白をして振られない限り、気持ちに区切りをつけることができないだろう。

 それなら自分から行動に出るしかないとわかっている。動かなければ彼とはなんの進展も望めないことを。

 それでもやっぱりなかなか勇気が出ない。そんな私の態度に痺れを切らした公佳は、私にメニュー表を渡して背中を押した。

「ほら、勇気を出せ!」

「わっ!? ちょっと!」

 ホールに放り出され、すぐに店内にはお客様がいることを思い出して笑顔を取り繕った。それに今ホールにいるのは、私と公佳だけ。どちらかがオーダーを取るしかない。

 お冷とおしぼりをトレーに載せて、緊張しながら彼がいるカウンター席へと向かう。

「いらっしゃいませ、お冷とおしぼり失礼します」

 それぞれテーブルに載せて、最後にメニュー表を渡すより先に彼が笑顔で口を開いた。
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