双子を身ごもったら、御曹司の独占溺愛が始まりました
「ありがとう」

 いつもの笑顔でお礼を言われると、やっぱり胸がきゅんとなってしまう。もう何度もこの笑顔を見ているというのに慣れそうにない。

「ごゆっくりどうぞ」

 一礼をして席を離れながらチラッと彼を見ると、珈琲を飲んで顔を綻ばせた。

 自分の淹れた珈琲を美味しそうに誰かが飲んでくれる。これが私にとって最高に幸せな瞬間だ。

 お客様がお帰りになったテーブルの片づけをして、空いた食器を厨房に運ぶと、すぐさま公佳が駆け寄ってきた。そして期待した目で私を見る。

「どうだった? ちゃんと連絡先を聞けた?」

「無理に決まってるでしょ?」

 そもそも彼の他にもお客様がいるんだから、そう簡単に聞けるわけがない。それなのに公佳はあからさまにがっくりと肩を落とした。

「もう、意気地なし」

「意気地なしでけっこう。変に聞いたりして、彼が来てくれなくなっちゃったら嫌だもの」

 そうだよ、前に進んで彼に会えなくなったら悲しい。それならずっと片想いのままでもいいのかもしれない。

 それに彼ほどカッコいい人なら、恋人がいてもおかしくないはず。だったらなにも知らずに密かに想いを寄せているほうが幸せなのかもしれない。

 なにより私には一人前のバリスタになるという夢がある。今はまだ遥かに遠い未来の夢だけど、いつか自分のお店が持てたら……とも思っている。

 今はその夢を叶えるためのスタート地点。恋愛に現を抜かしている場合じゃないんだ。

 しかし公佳は納得いかないようで、唇を尖らせた。
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