本能レベルで愛してる~イケメン幼なじみは私だけに理性がきかない~


「では、お二人向かい合って、会話する感じでお願いしますー! 何かテキトーに話していてください!」

 三十代前後の短髪のお兄さんが、カメラを私たちに向ける。

 目の前にいるタキシード姿の紫音は、相変わらず少女漫画から抜け出してしまったヒーローみたいに輝いてる。

「三条のやつ、やっぱり呼ぶんじゃなかったな」

「紫音! 笑顔だよ! 話題違う方がいいんじゃない?」

「……たしかに」

 私の必死な言葉に、紫音は納得したような素振りを見せると、じっと私のことを見て話題を変えた。

「バタバタしててちゃんと言えてなかったけど、綺麗だよ、千帆」

「あ、ありがとっ……! 紫音も似合ってる!」

 大学生になってから、紫音はすごーく大人っぽくなった。

 身長もさらに伸びて、今は百八十五くらいあるみたい。

 頭ひとつ以上背の高い紫音を見上げていたら、彼は少しかがんで、私の耳元に顔を寄せてきた。

「今日の夜は寝かせられないと思うから、そのつもりで」

「なっ、なっ……!」

「何驚いてんの? 当たり前でしょ」

 そんなことを余裕な笑みで宣言されたら、一気にドキドキしてきた。

 もう夫婦になったというのに……まだ慣れないなあ……。紫音は本当にズルい。

「色々あったけど……、ようやくここまで来れたな」

 しみじみとした紫音の言葉に、私はこくんと頷く。

 本当に今日まで、沢山のことがあった。

 だけど私たちはこうして今、一緒にいられてる。

 小学生の頃の私がこの未来を知ったら、きっとすごく驚くだろう。

 本当に人生、何があるか分からないなあ……。

 なんだか感慨深くなった私は、紫音にお礼を伝えたくなった。

「紫音、ありがとうね」

「え?」

「私と出会ってくれて、ありがとう。これからも、よろしくお願いしますっ」

 ぺこっと頭を下げると、カメラマンさんに「ご新婦様、横向きはキープでお願いします!」と怒られてしまった。

 そうだった、今は撮影中だったんだ! 恥ずかしい……!
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