本能レベルで愛してる~イケメン幼なじみは私だけに理性がきかない~
「少し震えてる」

 私の手首を掴んだ紫音が、切なそうな顔で私のことを見つめている。

 私、さっき紫音に向かって大嫌いなんて言ったのに、彼はすぐに助けに来てくれたどころか、今本気で私のことを心配してくれている。

 なぜか胸の奥から喉にかけてきゅーっと苦しくなる感覚がして、心臓がドキドキと高鳴り出す。

 これもフェロモンの作用? それとも、紫音だからこんなに心臓がうるさくなってるの?

 紫音はただの幼なじみなのに、こんなにドキドキしていいのかな。

「……紫音、助けてくれてありがとう」
「うん」
「さっき、大嫌いなんて言ってごめんね」
「いいよ、そんなことどうだって」

 お前が無事なら、と言葉を付け足して、紫音がほっと安堵のため息をつきながら、私の体を片手で抱き寄せる。

 あ、やっぱり、紫音に触られるのは、全然嫌じゃない。

 嫌じゃないどころか、ドキドキするのに、落ち着く。不思議だ。

 またきゅーっと胸が苦しくなるのを感じたので、紫音の気持ちも確かめたくて、初めて自ら抱きついてみた。

「千帆……?」
「紫音の心臓も、ドキドキしてる」
「そりゃそうだろ。好きな女とこんな密着したら」
「えっ! 好きな女って……あれ?」
「なんだその反応」

 あれ? 紫音には好きな子が他にいるのかもしれないって思っていたけれど、そうじゃなかったのかな?

 文脈を間違っていなければ、好きな子は私ということ?
 
 あれ、本当に? 告白ってこんなにサラッとしてるもの?

 ぽかんとした顔で紫音の顔を見つめると、彼は完全に呆れ返った顔をしている。

「え、何、今のでようやく気づいたの?」
「だって紫音、私と番になるって言ったとき、すごく切なそうな顔してたから、他に好きな子がいるもんだと思って……」
「なんでそういうときだけ俺の感情に敏感なわけ? 意味わかんない」

 紫音はハーッと大きなため息をついて、呆れていても整いすぎている顔で、私を見つめる。

 そっか。私の勘違いだったんだ。よかった。
 よかったって思うのは、私のどこかに紫音に対する独占欲があったってことなのかな。

 紫音は、私のことを恋愛の意味で好きってことなんだよね。
 なんだかそれは、恥ずかしいけど、嬉しい気持ちが大きい。

< 20 / 103 >

この作品をシェア

pagetop