本能レベルで愛してる~イケメン幼なじみは私だけに理性がきかない~
「とにかく、取り巻きにリンチとかされそうになったら、すぐに僕たちか紫音様を呼ぶこと! OK?」

「そんな漫画みたいなことあるかなあ……」

 ぽつりとそうつぶやくと、「あるから言ってんの!」と声を揃えて二人に怒鳴られた。

 二人が心配してくれるのはすごくありがたいけれど、さすがに取り巻きさんたちが喧嘩を売りにくるなんてことはないと思うんだけれど……。



 呑気なことを思っていた数時間前の自分を呪いたくなる。

 私は今、般若のような顔をした三人の取り巻きさん達を前に、一歩も動けない状態になったいる。

 放課後自販機でジュースを買っていたところ、突然取り巻きさんたちに話しかけられ、強制的に裏庭へと引きずり込まれてしまったのだ。

 まさか、本当に漫画のような展開になるだなんて。

 かおりんとタケゾーの言うことをちゃんと聞いていたらどれほどよかったことか……。

「率直に聞くけど、あんた紫音様のこと誘惑して契約結んだんでしょう? なんて汚らわしいど庶民のΩ」

「フェロモンなんかで人の感情をコントロールするなんて、卑怯よ! 今すぐ紫音様の催眠を解いて」

「Ωの人間って、本当にしたたかだわ」

 言いたい放題言われながら、私はなんて答えたらこの状況から脱することができるのか、足りない頭でぐるぐると考えていた。

 うう、紫音が暴露したりしなければこんな状況には……。

 最初はそう思ったけれど、でも、この状況は少しおかしい。

「あの、フェロモンで感情までコントロールされてるとしたら、それは紫音と皆さんの関係もそうなってしまうのでは……」

 思ったことをそのまま言うと、取り巻きさん達はカッと顔を赤くして、「紫音様の魅力はあんたとは比べものにならないわよ!」と言ってビンタをしてきた。

 と言っても、ぺちっという音がした程度なので大したことはないし、弟との喧嘩の時の方がはるかに激しい。頬が腫れるまで殴り合ったこともあるから。

 どうしたものかと考えながら黙っていると、ビンタをしてきた女生徒がびくびくと震えていることに気づいた。

 もしかして、私をビンタしてしまったことに対して、罪悪感を抱いているのだろうか。三人ともいかにもお嬢様な感じで、激しい喧嘩とは無縁そうだし……。

 私は思わずビンタをしてきた人の震えている手を取って、ぎゅっと握りしめた。

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