本能レベルで愛してる~イケメン幼なじみは私だけに理性がきかない~
 笑って誤魔化してみたけれど、紫音は真剣な顔であることを問いかけきた。

「ねぇ、十七歳になって、体に異変とかないよね?」
「異変……? 何もないけど。あ、まさか、私がΩに変化するかもとか思ってるの? ありえないって」
「……なら、いいけど」

 紫音が心配してるのは、多分、十七歳になるとΩの特性が現れてしまうβが稀にいる、という現象のことだろう。

 αとΩは、フェロモンによってかなり強烈に惹かれあってしまうらしいから……そこも紫音的には心配なのかも。

「大丈夫! たとえ私がΩだとしても、紫音を誘惑できるはずないし、安心して!」
「…………」

 私は自信満々に胸をたたいてそう言うと、みるみるうちに紫音の眉間のシワが濃くなっていく。
 思い切り不機嫌なオーラを飛ばしながら、紫音はいきなり私の手首を掴んだ。

「ど、どうしたの? 紫音」
「千帆の頭が悪すぎて、朝からキレそう」
「急にめちゃくちゃ悪口……!?」
「お前さ、俺のことなんだと思ってんの?」
「何って、紫音は紫音だよ。よき幼なじみの」
「俺はお前のこと、幼なじみなんて思ったことねーよ」

 ど、どうしよう。なんで今日はこんなに機嫌が悪いの? 反抗期?
 
 もう着替えないと遅刻しちゃうんですけど……。チラッと時計を見ると、もう完全に遅刻の時間だった。なのに私はまだパジャマ姿だ。

 私は慌てて、なぜかやたらと距離が近い紫音の胸板を押し返して、話を逸らそうとした。

「ちょ、ちょっと紫音。もう急がないと遅刻しちゃうよ?」
「分かった。じゃあ、簡潔に教えてやるよ」
「え、何を……?」
「俺がお前のことどう思ってるのか」
「え……?」

 ふと顔を上げたときには、紫音の美しい顔面がまつ毛が触れそうなくらい近くにあった。

 驚き顔をそらそうとしたが、無理矢理顎を掴まれ、唇に柔らかいものが当たる。

 ――そのとき、今までの人生で感じたことのないくらいの甘い痺れが、全身に行き渡った。

「んっ……!」

 ビリビリとした甘い痺れは私の脳を働かなくさせ、指先まで力が入らなくなっていく。

 頭から何かの物質がドパーッと放出されているかのように、自分の体が自分じゃないみたいになっていく。

 触れた唇が、甘くて熱い。こんな感覚知らない。耐えられない。

「し、紫音……!」

 なんとか彼の肩を押し返して体を離すと、紫音は見たことないくらい興奮しきった顔をしていて、目の色が少し赤く変わっていた。ただでさえ色っぽい紫音が、とんでもなくフェロモンを撒き散らしている。

 こんな姿、クラスメイトが見たら卒倒確実、先生まで泡を吹いて倒れてしまうかもしれない!

 でも、程なくしてすぐに正気を取り戻したのか、今度は一気に顔を青ざめさせていく。

 そして、私の両肩を掴んで、絶望感に溢れた顔で何かを言いかけた。

「お前、もしかして本当はβじゃなくて――」
「え、何? 顔怖いよ?」
「最悪すぎだろ……」

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