本能レベルで愛してる~イケメン幼なじみは私だけに理性がきかない~
 千帆はΩ。つまり、俺と“番”になるべき、存在。
 
 希少なαの人間を残していくために、αとΩが一緒になることは、世の中的に強く望まれている。

 というよりも、フェロモンの作用で強く惹かれあい、本能的に離れることができないのだ。

 最悪だ、と思った。
 まさかこんな形で、俺と千帆の関係性が変わってしまうだなんて。

 フェロモンなんかの作用で好きになられたって、ちっとも嬉しくない。

 性欲が暴走して千帆を傷つけることをしてしまったら、もう二度と立ち直れない。

 αとΩだから、という、そんな義務的な関係で、一緒にいたくない。

 俺は、そんなクソみたいなカーストの壁なんて全然関係ないところで、千帆を好きになったというのに。

 本当に――、何もかも、最悪だ。

 


 
「あ、紫音! なんで今日朝起こしてくれなかったの!」

 千帆を襲ってしまうことが怖くて、今朝はひとりで登校した。

 すると、遅刻ギリギリにやってきた千帆が、すぐに俺の机までやって来て文句を言ってくる。
 しかもベタなことに食べかけのパンを片手に持ったまま。

 何もかも最悪だ……と思っていたはずが、一気に脱力する。

 本気で緊張感のないやつだな。
 俺、なんでこいつのこと好きなんだっけ。
 でもこのなんも考えてなさそうな顔、やっぱり癒されるんだよな。

 呆れた目で何も言わずに千帆を見ていると、クラスメイトの女子数人が俺と千帆の間に割って入って来た。

「紫音様おはようございます、今日も美しいですね、息してくださりありがとうございます!」
「これお菓子作って来たんです。よかったら食べていただけますか。不味かったら即窓から投げ捨ててくださってかまいません!」
「これ紫音様が好きだって言ってたバンドのCD三十枚買ってきました! いらなければこれも投げ捨ててください!」

 邪魔だ。どけ。千帆が見えない。

 そう心の中で悪態をつきつつも、千帆がまったく彼女たちの標的にされていないことには、正直ほっとしている。

 千帆はライバル視されるような階級の人間ではないと思われているのか、一切彼女たちの視界には入っていない。

 千帆はいつもギリギリで学校に登校してくるので、化粧っ気もないし、持ち物も全部女子高生らしからぬ素朴なものばかり持っているので、背景と化しているのかもしれない。

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