本能レベルで愛してる~イケメン幼なじみは私だけに理性がきかない~
本当にやり過ごせるのだろうか……。
こんなに可愛い姿、どこにも晒したくない。
でも、たしかに抑制剤はしっかり効いているようで、クラッとするような強烈なフェロモンは感じない。これなら突然襲われるようなことはないか……とひとまず安心する。
「紫音ごめん、お手洗い行ってきてもいいかな?」
「了解。場所はこの突き当たりにあるから。俺はここで待ってる」
「分かった!」
前も見ずに歩き出す千帆にまた不安になりながらも、俺はパーティー会場の広間の入り口で彼女を待つことにした。
腕組みしながら千帆を待っていると、こそこそと周りの女性の話し声が聞こえてくる。
αで大財閥の御曹司……という肩書きに、揃いも揃って興味津々なのだろう。自分が築いたわけでもない功績でもてはやされても何も嬉しくない。
ずっと不機嫌そうに俯いていたけれど、ふと熱烈な視線を感じて、たまらなくなり嫌々顔を上げる。
するとそこには、自分と同い年くらいの女性が目を潤ませて立っていた。
「あのー、伊集院紫音様……ですか?」
肩につかないくらいの長さのボブカットで、黒いドレスを着こなしたその女性は、恐る恐る俺を見つめている。
誰だ……? どこかで見たことがあるような気もするけど……。
眉を顰めて黙っていると、彼女の方から自己紹介をしてきた。
「あ、私、伊集院家にお世話になってる、花屋の娘の、鈴山翠(すずやま みどり)です……! いつもありがとうございます」
「ああ、昨年挨拶したような……。どうも」
そうだ。全国で展開される大手花屋の娘だ。たしか年がひとつ上の……。
鈴山花園(かえん)には、ホテルに飾る花を毎度手配してもらっている。恐らく今回のパーティー向けの花も全部鈴山家の仕事だろう。
たしかこの娘の父親がごりごりの営業で、かなり強く提携を迫られたんだっけ……。
「今年もお招きいただき光栄です!」
花屋の娘がペコッと頭を下げると、ちょうど後ろから彼女の父親と俺の父親が一緒に姿を現した。
「やーやー、伊集院家のご子息様! うちの娘と仲良くしていただきありがとうございます!」
色黒で白髪混じりの鈴山社長が、俺を見つけた途端ニコッと目を細める。
オールバックヘアの父も、隣で穏やかな笑みを浮かべており、俺に片手を振って挨拶をしてきた。
「紫音、無事に会場に着いてたんだな」
父の言葉に、俺は「はい」と返事をした。父と仲が悪いわけではないが、こういう場所では立場上敬語で話すようにしている。
そんな俺たちの間に、鈴山社長は自分の娘をずずいと押し出してきた。