本能レベルで愛してる~イケメン幼なじみは私だけに理性がきかない~
「こ、こんな部屋勝手に入っていいの⁉︎ ていうか、パーティーもうすぐお父様のスピーチとか始まるんじゃない?」
最上階の部屋は、一泊八十万近くするスウィートルームだ。今日は元々この部屋に泊まるつもりだったから問題ない。
キングサイズのベッドが二つ余裕で置けるほどの広さの寝室と、上等な家具が揃ったリビングルーム。
ほとんど壁はガラス張りで、宝石のように輝く夜景が見下ろせる。
俺は寝室へと千帆を連れていくと、ドサッとそのままの勢いで押し倒した。
「し、紫音……! どうしたの、何か喋って……!」
水色のドレスを少しだけ肌けさせた千帆が、動揺に満ちた瞳を俺だけに向けている。
俺はそんな彼女の額にチュッとキスをしてから、覆い被さるようにして強く抱きしめた。
「ごめん、あんなこと聞かせて、傷つけて……」
ようやく出た言葉は、頼りなく震えた。
それなのに、千帆の体を抱きしめながら、俺はこの手を絶対離したくないと思っている。
俺のそばにいると、きっと千帆は大変な思いをする。これから先もずっと。
分かっていたことなのに、感情の制御が効かない。
「……紫音、顔見せて」
「いやだ」
「なんで! 見せて!」
「無理。今訳わかんない顔してるから」
子供みたいな言葉を返すと、グッと顔を掴まれて、無理やり見つめ合う体勢にされた。
まん丸で透き通った瞳と視線が絡み合い、俺はその可愛さに頭がおかしくなりそうになる。
いくら抑制剤を飲んでると言っても、俺の千帆に対する思いが強すぎて、こんなに近づくとクラッとするほどのフェロモンを感じてしまう。
「あのね、私本当に何も気にしてないから! そりゃ、αの女性と紫音の2ショットがお似合いすぎて、ちょっとだけ悲しくはなったけど……」
「何が? どこが? 全然お似合いなんかじゃないしマジで一ミリもありえないから」
「怖い怖い! 目がマジだよ!」
真顔で淀みなく言い返すと、千帆は慌てて俺を宥める。
千帆がまさかそんなことまで思っていただなんて……。
「あのおじさんには、すっっごく腹立ったけど、本当にちょっとだけ勉強にもなった! αとΩが対等に付き合うって世間的に難しいこともあるんだろうなって分かったから」
「千帆、そんなこと真に受けなくていい」
達観した意見を述べる千帆を見て、チクリと胸が痛んだ。
こんなこと、どうして千帆が学ばなきゃならないんだ。