本能レベルで愛してる~イケメン幼なじみは私だけに理性がきかない~
抗えない、抗いたい
伊集院家主催のパーティーに行ってから約一ヶ月後。
三ヶ月に一度発症する、人生二回目のヒートがやってきた。
前回の件を反省し、今回のヒート期間は大人しく自宅で過ごすことに決めた。
紫音にも『絶対自宅待機がいい。誰にも会うな』と言われ、それに大人しく従う。もう誰もフェロモンで狂わせたりしたくないし。
そうして、ずっと熱っぽい体調が続いてる間、紫音は本当に一度も私の前に姿を現さなかった。毎日、母親みたいに、体調を心配するメッセージは届いてたけど。
「もう熱っぽくない……!」
そして、一週間後の朝。私は見事に復活したのだった。
ずっと体が熱くて仕方なくて、この一週間は本当に辛かったけど。
パジャマ姿のままカーテンをシャーッと開けて、眩い朝日を全身に浴びる。
日常が戻ってきた多幸感に、思わず笑顔がこぼれ落ちた。
【今日から学校行けます!】
Vサインの絵文字付きでかおりんとタケゾーのグループにその場でメッセージを送ると、すぐに返信がきた。
【紫音様に早く会ってあげて。僕もう見てられない】
【千帆不足で大変近寄りがたいオーラを出してるよ】
【千帆がいない間に紫音様の取り巻きもチャンスとばかりに暴走してるし、それで紫音様の機嫌も悪くなってるし……なんとかしなよ】
「ど、どうした紫音……」
二人から久々に会えて嬉しい!的なコメントを待っていたのに、届いたメッセージにはかなり不穏な空気感が流れている。
会えなかったと言っても、たったの一週間くらいなのにな……?
私はメッセージアプリを再びタップすると、紫音にメッセージを送ることにした。
【紫音、おはよ! 今日から学校行けまーす!】
サクッとメッセージを送ると、秒で既読状態になる。
それから、絵文字も何もないシンプルな言葉が返ってきた。
【親父に仕事について来いって言われた。何日か休む】
「あれま」
入れ違いで会えなくなってしまったな。
紫音、私に会えずに機嫌が悪かったわけじゃなくて、ただ単に仕事の行事が嫌だっただけなのでは……。
ちょっと寂しいけれど、私はすぐに返信をする。
【そうなんだ! 会えなくて残念だけど、頑張ってねー!】
【最悪だ。そろそろ行く。じゃ】
「……本当にだるそうだな」
いつも紫音のメッセージは塩いけど、今回は特に簡素だ。
心配に思いつつも、もう支度しないと遅刻しちゃう!
私は急いで制服に着替えて、久々に学校へと向かったのだった。
◯
「おー、来た来た」
教室に入ると、かおりんとタケゾーがすぐに私に気づいて手を振ってくれた。
「かおりん、タケゾー、おはよー!」
「千帆と会えない間に僕イメチェンしたの。どう? 可愛い?」
「ほんとだー、可愛い!」
タケゾーはピンクのメッシュを襟足に入れていて、さらにおしゃれになっていた。
エンスタのフォロワー数が三万人いると言っていたけど、さすがだなー。
「そういや私がいない間、紫音、機嫌悪かったの……?」
かおりんにふと問いかけると、彼女は大袈裟に肩をすくめて答えた。
「悪いってもんじゃないわよ。いつもクールな雰囲気だけど、ため息ついたり、上の空だったり、本当心配になったんだから。あ、そういや今日紫音様と一緒に来なかったの?」
「うん、家の都合で休みだって」
「えー! かわいそう……。電話とかしてあげなさいよ……」
そんなに憐れむなんて、よほど元気がなかったんだろうか。
単に行事が面倒なだけだったんだろうけど、想像すると少しかわいそうになってくる。