本能レベルで愛してる~イケメン幼なじみは私だけに理性がきかない~
ようやく理解が追いついた私は、バッと三条君の胸を押して勢いよく離れる。
あ、危ない! 今一瞬、αとΩが触れ合った時の特徴的な反応が出たような……。それに、三条君が話してる間、少し頭がぼーっとしていた。
やっぱり、紫音じゃなくてもフェロモン同士無条件で作用してしまうことがあるんだ。
なんか、αだったら誰でもいいみたいで、少しショックだ……。
自分が不誠実に感じて、ズキンと胸が疼く。
「残念だけど、心と体を完全に切り離すことはできないよ。千帆ちゃんはΩである以上、無条件で俺にドキドキするようにできてる。……番をつくるまではね」
ショックを受けてる私を見て、淡々と説明をつけ加える三条君。
でも、その顔は真剣だった。
彼はまた一歩私に近づき、私の顔を覗き込んでくる。
「でも俺は、Ωとかαとか関係なく、千帆ちゃんのことが好きだよ」
「さ、三条君……」
「さっき、白鳥先輩に色々言ってくれてたの、嬉しかった」
その言葉に、嘘はひとつもないんだろう。だって、目がすごく真っ直ぐだから。
感情で人を好きになるなんて馬鹿馬鹿しいと思っていたはずの三条君が、まさか私のことをそんな風に思ってくれていたなんて……。
戸惑うけど、でも、私が好きな人はただひとりで……。
「ごめん三条君、さっきも言ったけど私……!」
「ストップ。大丈夫、今は気持ちを知ってもらえただけで十分だから」
「そ、そうなの……?」
不思議そうな顔で見上げる私の髪の毛をするりと手に取って、三条君はそっと髪の毛にキスを落とした。
「でも、もし紫音君に泣かされることがあったら、あっという間に攫っていくから」
さ、攫っていくって……! そんなこと自然に言える人いるんだ!
お、王子様が現実世界にいたら、こんな感じなのかな……。
思わずその絵画的な美しさに見惚れてしまいそうになったけれど、すぐに正気に戻る。
ま、まずい! このままじゃ三条君のペースに呑まれてしまう!
このまま二人きりでいたらまずいことだけは分かっている!
「さ、三条君! パフェはまた今度タケゾーとかおりんも来れる時に行こうね! 今日は助けてくれてありがとう、また明日学校でね!」
「え……?」
「じゃあね!!」
私はなんとか三条君のキラキラオーラを振り切って、倉庫を出た。
今日は色んなことがありすぎた。もうキャパオーバーだ。
……なんだか無性に、紫音に会いたくて仕方がなかっだ。
「あー、やばかった。紫音君、あれに耐えてるの本気ですごくない……?」
ひとりになった三条君がしゃがみ込んで、そんなことを余裕なさげにつぶやいてるなんてつゆ知らず、私はパニック状態のまま紫音に会いに向かったのだった。
◯
【紫音、今どこにいるの?】
【ようやく仕事終わって帰ってきたところ。千帆は?】
【私も今帰ってる! 紫音の家に行っていい?】
【了解】
電車に乗りながらメッセージを送って、私は紫音と会う約束をした。
とにかく、紫音に会いたくて仕方ない。
一週間会えないくらい、全然大丈夫だと思っていたのに。
相変わらず豪邸な紫音の家の前にたどり着くと、私は恐る恐るインターフォンを押した。
普通の家三軒分くらいある紫音の家は美術館みたいな見た目で、真四角でシンプルながらも、デザインがすごくかっこいい家だ。お庭が広くて、門からは家が遠い。
すぐに門が自動で開いて、私は敷地の中へと足を運んだ。
再びインターフォンを押してドアが開かれるのをドキドキしながら待っていると、黒いスーツ姿の紫音が出てきた。
「千帆、どうした? いつも俺の家は入り辛いって嫌がるのに……わっ」
「紫音!」
私は紫音の顔を見た瞬間、感情が爆発してしまって、思わず抱きつく。
紫音はよろめきながらも、しっかり私を抱き止めてくれた。
しかし、かなり私の行動に戸惑っているようで、頭にハテナマークを浮かべている。
「何、なんかあった? 大丈夫?」
「ううん、ただ会いたくて……」
「何それ、可愛い」
「まあとりあえず入りなよ」と言って、紫音は自分の部屋へと案内してくれた。
紫音の部屋は黒い家具中心に揃えられていて、凄くクールな感じ。
久々に入ったので少し緊張しながら、紫音に導かれるがままに黒い革張りのソファに座った。
紫音はお父さんの取引先に駆り出されていたようで、ネクタイもかっちり締めて、髪型も少し固めている。